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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

武蔵は、耳のないような顔をしていたが、彼の言葉が終るのを待って――そしてなお、磯打ち返す波音の間を措いてから――相手の肺腑へ不意にいった。

「小次郎っ。負けたり!」

「なにっ」

「きょうの試合は、すでに勝負があった。汝の負けと見えたぞ」

「だまれっ。なにをもって」

「勝つ身であれば、なんで鞘を投げ捨てむ。――鞘は、汝の天命を投げ捨てた」

「うぬ。たわ言を」

「惜しや、小次郎、散るか。はや散るをいそぐかっ」

「こ、来いッ」

「――おおっ」

答えた。

武蔵の足から、水音が起った。

巌流もひと足、浅瀬へざぶと踏みこんで、物干竿をふりかぶり、武蔵の真っ向へ――と構えた。

が、武蔵は。

一条の白い泡つぶを水面へ斜めに描いて、ザ、ザ、ザと潮を蹴上げながら、巌流の立っている左手の岸へ駈け上がっていた。

七

水を切って岸へ、斜めに、武蔵が駈け上がったのを見ると、巌流は、波打際の線に添って、その姿を追った。

武蔵の足が、水を離れて磯の砂地を踏んだのと、巌流の大刀が――いや飛魚のような全姿が、

「喝ッ」

と、敵の体へ、すべてを打ち込んだのと、ほとんど、同時であった。

海水から抜いた足は重かった。