Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
今夜は夜徹しあるというから」
なるほど、武蔵の木皿には、まだ赤飯が食べ残っていた。それがなくなったら行くというに違いない。伊織は、そう思い直して神妙に、
「今夜も、星が出てますよ」
「そうか」
「このお山の上に、何千人という人がきのうから登ってるから、雨が降っちゃあ可哀そうだ」
武蔵は、可憐しくなって、
「じゃ、行って見るかな」
「ええ、行きましょう」
飛び上がって、伊織は先に玄関へ駈け出し、そこの藁草履を借りて、揃えておく。
別当所の前も、山門の両わきにも、大篝火をどかどかと焚いていた。門前町の家ごとには、門々に松明をつけて、何千尺の山の上も、昼をあざむくばかりだった。
湖水のように深い色をした夜空には、銀河がキラキラ煙っていた。その麗しい星明りと火光に煙ってうごく群衆は、神楽殿を繞って、この山上の寒さを知らぬ人いきれにしていた。
「……あら?」
伊織は、その人混みに揉まれながら、きょろきょろして、
「先生はどこへ行っちまったんだろう。たった今、いたのに」
笛や太鼓が、山風に谺を呼んで人足もいよいよここへ流れ集まっては来るが、神楽殿にはまだ、静かに、灯影と帳が揺れているのみで舞人はあらわれていなかった。