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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
「お日様の血も、おれの血も、同じ色だ」
その手で、伊織は、拍手を打った。そして俯し拝みながら、心のなかで、じっと、
――猿には親がある。
――おれにはない
――猿には大神祖がない
――おれにはある!
と、思って、歓びに盈ちあふれて来た。涙がながれかけて来た。
その涙の疼きが、唐突に、伊織の手や足を動かし始めた。伊織の耳には、ゆうべの岩戸神楽が、雲の彼方で聞えているのである。
「――タラン、タン、タン、タン。――どどん、どん……」
笹を拾って、舞い出した。
神楽拍子に足を踏み、手を流し、そして、きのう覚えたばかりの神楽歌を謡った。
あずさ弓
はる来るごとに
すめ神の
豊のあそびに
あわんとぞおもう
あわんとぞ思う――
気がつくと、武蔵はもう彼方を歩いている。伊織は、あわてて駆け出した。
道はまた、樹林のあいだへはいって行く、――もう参道が近いのではあるまいか。樹々の姿におのずから統一がある。
巨きな樹はみな、厚ぼったい苔をかぶっていた。苔には、白い花がたかっている。五百年も千年も生きて来たかと思うと、伊織は、樹にもお辞儀をしたくなった。
足許はだんだん熊笹に狭められて来る。