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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
何処へ持って行っても、三百石や五百石は――)
と、平常それとなく示している小次郎の誇りに、角兵衛のありのままな伝え方が、ぐいと当りが悪く触ったものに相違ない。
小次郎は、他人の気持に関っていない質だったから、角兵衛が当惑して困った顔をしていようが、自分をわがまま勝手な人間と思おうが、いっこう心にかけるふうもなく、食事を終ると、さっさとわが住む棟へ帰ってしまった。
燈灯のない畳には、月明りが白く映しこんでいた。小次郎はそこへあがるとすぐ、酔った体を仰向けに横たえて、手枕をかった。
「ふ、ふ、ふ……」
何を思い出したか、独りでこう笑いだしながら、
「とにかく、正直者だな、あの角兵衛は」
と、つぶやいた。
ああいったら、角兵衛が主君に対して困ることも――また、どう振舞っても、角兵衛が自分に対して怒らないことも――何もかもよく知りぬいている彼だった。
(禄に望みはない)
と、かねて自分からいってはあるが、彼の満身は、野望に満ちていた。その彼に禄の望みがないわけもなく、自分の力で能う限りの名声も、また立身も望んでいた。
さもなくて、何で、苦しい修行などやる必要があろう。