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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
それを、取り囲んでいる人々は、埋葬の相談をしているのだった。
死者の身許は分らない。
年頃は若い。
そして侍だという。
肩先から、思いきって深く斬られているのである。血しおは黒く乾いていた。持物は何もないらしい。
「わしは、この侍を、見かけたことがある。四日ほど前の夕方じゃった」
花屋の老爺がいった。
「……ほ?」
と、僧侶や近所の人々は、彼の顔を見まもった。
老爺は、なおも、何か喋舌りかけたが、その時自分の肩を叩く者があるので、振り顧ると小次郎が、
「おぬしの小屋に、岩間殿の白馬が預けてあるそうだが、出してくれい」
「お、これは」
あわてて辞儀をして、
「お出ましで」
と、老爺は、小次郎と共に急いで家の方へ戻った。
小屋から、曳き出して来た月毛を撫でて、
「良い馬じゃな」
「はい。よいお馬でございまする」
「行って来るぞ」
老爺は、鞍の上へ移った小次郎のすがたを見上げて、
「お似あいなさいます」
小次郎は、巾着の中から、若干かの金をつまみ出して馬上から、
「おやじ、これで、線香と花でも供げておいてくれ」
「……へ? 誰方へ」
「今の死人へ」
小次郎は、そういって、坂下の寺門前から、高輪街道へ出て行った。