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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
「せめて、もう二十日も早く来たら」
と、何度となくいう。
助九郎も、頻りと、
「惜しい、惜しい」
を繰返して、今は何処やら知れぬ人の行方を雲にながめるのだった。
もういうまでもないが、夢想権之助が伊織を連れてこれへ来たのは、柳生城にいると聞いたお通を訪ねて来たのである。
そのお通には自分の用向きではなく――先頃、北条安房守の宅で計らずも、伊織の姉なるものが話題にのぼり、それこそ実にお通という女性であると――同席の沢庵に教えられてから、思い立って来たことであった。
ところが。
かけちがって、そのお通は、およそ二十日ばかり前、武蔵を訪ねて、江戸へ立った。――悪い時にはぜひもないもので、今、権之助に江戸の消息を聞けば、武蔵その者もまた、権之助の立つ前に、すでに江戸を去ってしまい、知己身辺の者にすらその行方は知れていないという。
「迷うていような」
ふと、兵庫はつぶやく。
そして何日か、一度彼女を宇治の途中まで追って行きながら、呼び戻さずに帰ったことを――軽く悔いたりしながら、
「あわれ、どこまで不幸な」
と、わが淡い未練を人の恋に寄せて、何がなしばし物想わせられた。