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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens

Aozora Bunko

と、身を罵って、攀じ難き峰を仰いで、よけいにいた。

時には、さもしい、浅ましい、餓鬼のように煩悩の中に。また時には、澄み返った、峰の月のように、孤高を独り楽しむほど潔い気もちになったり――朝に夕に、濁っては澄み、澄んでは濁り、彼の心は、その若い血は、あまりに多情であり、また、多恨であり、また、躁がし過ぎた。

そういう心の中の明暗不断な妄像と同じように、形に現れる彼の剣も、まだまだ彼が自分で、

「よし」

と、思う域には達していないのだった。その道の遠さ、未熟さが、自分には、余りに分りすぎているので、時折の迷いと、苦悶とが、烈しく襲ってくるのだった。

山に入って、心が澄めば澄むほど里を恋い、女を思い、いたずらに若い血が狂いそうになる。木の実を喰べても、滝水を浴びて、いかに肉体を苦しめてみても、お通を夢みて、うなされる。

ふた月ばかりで、彼は山を降りてしまったのである。そして藤沢の遊行寺に、数日足を留め、鎌倉へまわって来た所、そこの禅寺で、はからずも自分以上に苦しみもがいている男と出会った。それが旧友の又八であった。

二

又八は、江戸を追われてから、鎌倉へ来ていた。