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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
それはそうと、急に声がしなくなったのは、もう半分死んでしまったようになっているのではあるまいか。
「ばば様。お待ちなさいよ。……気を慥乎して! 今! もう直ぐにお助けいたしますから」
岩と岩のあいだに顔を寄せていったが、それでも返辞はなかった。
もちろん、窟の中は、洞然たる暗黒で、ばばの影もみえない。
――が、微かに。
或遇悪羅刹
毒龍諸鬼等
念彼観音力
時悉不敢害
若悪獣囲繞
利牙爪可怖
念彼観音力
ばばの唱える観音経の声がそこにする。ばばの眼や耳には、お通の声も姿もなかった。ただ、観音が見える。菩薩の御声が聞えている。
ばばは、合掌し、安心しきって、今は涙を垂れながら、ふるえる唇から、観音経を唱えていたのであった。
けれどお通に神通力もなかった。積み重ねてある三つの岩の一つも動かせなかった。雨はやまず、風は休まず、彼女の蓑もやがて千断れ果てて手も胸も肩も、ただ雨と泥にまみれるばかりだった。
四
そのうちに、ばばも、ふと不審に思い出したのであろう、隙間に顔を寄せて、外を窺いながら、
「誰じゃ? 誰じゃ?」
と、どなった。
力も尽き、精も尽き、途方に暮れた顔して、風雨の中に、身を萎めていたお通は、