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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
だが、この永い乱麻の世相は、もう一転する秋だろう。野性の人間が、野性を大きく買われる時代は過ぎた。武蔵があるいた足跡の範囲だけを見ても、将来、天下が徳川になろうが豊臣の掌に帰ろうが、人心の一致している方向はすでにきまっている。
それは、乱麻から整理へ。また、破壊から建設へ。――要するに、求めても求めなくても、次期の文化が、人心の上へひたひたと潮を上げているのである。
武蔵は、独り思うことがある。
(生れたのが、遅かった)
――と。
(せめて、二十年も早く生れていたら、いや十年でも、間に合ったかも知れない)
――と。
自分が生れた時がすでに、天正十年の小牧の合戦のあった年である。十七歳には、あの関ヶ原であった。もう、野性の人間が用をなす時代はその頃から過ぎてしまったのだ。――今思えば、田舎から槍一本持って出て、一国一城を夢みるなどということは、おかしいほど、時代錯誤な田舎者の世間知らずであった。
迅い。時勢は急流のように早い。太閤秀吉の出世が、津々浦々の青年の血へ響いて来た時には、もう太閤秀吉の踏襲ではいけないのである。
武蔵は、伊織へ訓えるのに、そう考えずにいられなかった。