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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
と、互いに、勝ちをゆずり合ったことなどもあった。
こうした事々が、いよいよ、
「さすがは、巌流先生」
「おえらいもの」
「奥ゆかしい」
「底の知れぬお方じゃ」
と、衆の信望をあつめて、今では彼が、隔日に、馬上七名の供に槍を立たせて登城の途中でも、その姿を仰ぐ者は、わざわざでも馬前へ寄って来て、礼を施してゆくくらい、尊敬の的になっていた。
――だが。
それほどな、寛度を、落ち目の氏家孫四郎に示す彼も、ひとたび、
(――武蔵も近頃は)
と、不用意にかたわらの者が、宮本とか武蔵とかを口にして、その近畿や東国における世評のよいことを伝えると、
(ああ、武蔵か)
と、巌流の語気はたちまち冷やかなる狭小人の陰口に似たものとなり、
(あれも、近頃は、小賢しく世にも知られ、二刀流とか自称しておるそうな。元来、器用な力のある男で、京大坂あたりでは、ちょっと立ち対える者もあるまいからな)
などと、誹謗するともつかず、賞めるともつかず、その顔色にも何か出すまいとするものを抑えていうのが常であった。
二
時にはまた、巌流の萩之小路の屋敷をたずねる遍歴の武芸者が、
(まだ一度も、会ってみたことはないが、武蔵どのの名は、名ばかりでなく、上泉塚原以後、柳生家の中興石舟斎をのぞいては、まず当今の名人――名人といっては過賞なら、達人といってもさしつかえ