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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
彼が、彼ひとりの臆測で、あぶないと呶鳴ったために、権之助も、ばばも、すべてがお通の気もちを、咄嗟に穿きちがえたものらしく、
「あっ……どこへ」
「短慮な」
と、左右からあわただしく駈け寄るなり、三人して、確と、抱き止めてしまった。
「いいえ。いいえ」
お通は、静かに顔を振ってみせた。
肩で、息こそ喘いでいるけれど、決して、そんな浅慮なことを――と笑ってみせるように、抱き支えた人々へ、安心を乞うた。
「どう……どうしやるつもりか……?」
「坐らせて下さいませ」
声も静かである。
人々は、そっと手を離した。するとお通は、波打際から遠くない砂地へ、折れるように坐った。
しかし、襟元も、髪のほつれも、きりっと直して、武蔵の舟の舳へ向い、
「お心措きなく……。行っていらっしゃいませ」
と、手をつかえていった。
ばばも坐った。
権之助も城太郎も――それに倣ってぴたと坐った。
城太郎は遂に一言も、この際を、師と語ることもできなかったけれど、その時間だけ、お通に分け与えたのだと思うと、悔む気もちは少しも起らなかった。
魚歌水心
一
潮は上げている旺だった。
海峡の潮路は、激流のように迅い。