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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
三
寝ぐせがついて、近頃は寝てばかりいる。月の岬の例の家だった。寝るといっても、寝るべき時刻に寝るようにして寝ているのではなかった。
「物干竿も泣くだろう」
それを抱いて、仰向けに、畳へじかに転がりながら鬱勃たる独り言なのである。
「この名刀、この腕の持主が、五百石に足らぬ扶持を取りかね、いつまでも懸り人で朽ちているとは」
そういって、戛然と、抱いていた物干竿の柄を鳴らし、
「盲め!」
と、寝なりに宙を薙ぎ払った。そして、大きな半円を描いた光はすぐ、鞘の内へ、生き物のように潜み込んでいた。
「あざやかでございますな」
と、縁先から、岩間家の仲間が――
「居合のお稽古でございますか」
「ばかをいえ」
小次郎は、腹這いに寝返って、畳の上に落ちている虫の体を、爪の先で、ぽんと縁先へ弾き飛ばした。
「こいつが、灯へ飛びついて来てうるさいから、手討にしたのだ」
「ア、虫を」
仲間は、それへ顔を近づけて、眼をまろくした。
蛾に似た虫である。柔らかい羽も腹もきれいに斬れて半分になっていた。
「寝床を敷きに来たのか」
「いえ……つい申しおくれました。左様ではございません」
「なんだ」
「大工町の使いの者が、手紙をおいて帰って行きました」