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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
三
「はい」
「わしは長年、竹山城の御城下宮本村から、下ノ庄の辺りへは、よう麻の買い出しに行くが、近頃、さる所でふと、噂を聞いてな」
「うわさ。それは、誰の? ……」
「おまえのさ」
「ま。……」
「それから」
と万兵衛は、にやにやしながら、
「宮本村の武蔵という者のはなしも出たりして」
「え。武蔵さまの」
「顔いろを変えたな。はははは」
秋の陽が、万兵衛の頭に、てらてら遊んでいる。暑いとみえて、万兵衛は脳天へ、手拭の畳んだのを乗せて、
「お吟どのを知ってじゃろ」
と、地へしゃがみ込んだ。
お通も、藍に染まった布桶のそばへ、身を屈めて、
「お吟さまとは、あの……武蔵様のお姉上にあたる?」
「そうじゃ」
大きく頷いて、
「そのお吟どのに佐用の三日月村で会うた所、お前の話が出てな、びっくりしてござったわい」
「わたくしがこの家にいると、お告げなされたのでございますか」
「そうじゃが、何も悪いことはあるまいて。いつだったか、此家の染屋の小母御からも頼まれた――もし、宮本村辺へ行って、武蔵どのの噂でも聞いたら、何なりと耳に入れて欲しいと。……で、よいお方に会うたわいと道ばたであったが、こちらから話しかけたのじゃ」