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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
――が相手はその手に馴れているものらしく、闇をうごかして、微かに肩をゆすぶった。
「わしだよ。……おばば」
「え」
「わからないか」
「分らぬ。聞いたこともない声。物盗りであろが」
「ふ、ふ、ふ。物盗りなら、おぬしのような、貧乏婆に眼はつけぬ」
「なんじゃと。……では、わしに眼をつけて来たとか」
「そうだ」
「――わしに?」
「くどい。万兵衛ごときを斬るために、わざわざこの三日月まで追っては来ぬ。おぬしに思い知らせるためだ」
「ひぇっ」喉笛の破れたような声を洩らして、ばばは蹌めきながら、
「人違いじゃろが。おぬしは誰じゃ。わしは、本位田家の後家、お杉という者」
「おう、そう聞くだに、なつかしや俺の恨み、今はらしてやろうぞ。おばば! おれを誰と思う。この城太郎を見わすれたか」
「……げっ? ……城……城太郎じゃと」
「三年たてば、嬰児も三つになる。おぬしは老木、おれは若木。気のどくだが、もうおばばに、たらし扱いにはなっておらぬぞ」
「……おう、おう。ほんにお汝は、城太郎よのう」
「よくも、長の年月、お師匠さまを苦しめたの。師の武蔵さまは、おぬしを年寄と思えばこそ、相手にならず、逃げまわっていた。