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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(七) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 350,912 characters · 702 screens
「先生」
「旅人か」
「違いました。お客様です」
「……客?」
「北条新蔵様が」
「お。北条どのか」
「野道から来ればよいのに、杉林の中に迷いこんで、やっと分ったんですって。馬を向うに繋いで、裏に待っておりますが」
「この家には、裏も表もないが――此方がよかろう、お連れ申してこい」
「はい」
家の横へ駈け廻って、
「北条さん、先生はこちらにいます、こっちへお出でなさいまし」
伊織が呶鳴る。
「おう」
武蔵は、立って迎え、すっかり、壮健になった新蔵の姿にまず、欣びの眼をみはった。
「ご無沙汰いたしました。怖らく人を避けてのお住居とは察しながら、押して突然、お邪げ申しました。おゆるしのほどを」
新蔵のあいさつに、会釈しながら武蔵は、縁へ誘って、
「ま。お掛け下さい」
「いただきます」
「よく分りましたな」
「ここのお住居で」
「されば。誰にも告げてないはずだが」
「厨子野耕介から聞いて承知いたしました。過日、耕介とお約束の観音様がお出来とかで、伊織どのが、届けられたそうで……」
「ははあ、ではその折、伊織がここの住所を喋舌ったとみえる。……いやべつに、武蔵もまだ、人を避けて閑居するなどという年齢ではありませぬが、七十五日も身を潜めていたら、うるさい噂も冷めようし、従ってまた、耕介などに禍いのかかる惧れもなくなろうかと思ったまでのことでござる」