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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
三
などと云いながら、吃驚するほどの力で引張った。
「よしてくれ、本当に定宿があるんだ」
「うそ仰しゃいまし」
「嘘なもんか、上州屋仁兵衛というのが定宿なんだよ」
「まあお上手な、知ってますよ」
女はちょっと睨んで、声をひそめながら囁いた。
「本当はお伴れさまが先にあがって、あなたを待っていらっしゃるんですから」
「伴れだって、――」
「つい今しがたですわ、あれがそうだからって、わたしに教えて下すったんです、こっちが先に着いていることは内証にしてくれ、あとで驚かしてやるんだからって」
万三郎はどきっとした。
――敵の追手だな。
そう直感したのであった。
三
万三郎は黙って、女といっしょに茨木屋という宿屋の前までいった。さりげなく注意してみたが、こちらを見張っているような人間は眼につかなかった。
――本当に追手だろうか、それとも単純な人違いだろうか。
敵の追手だとすれば、自分のあとから跟けて来る筈である。追い越して、先に宿を取って、女中などに(内証で)呼び込ませるというのは、なにか理由があるにしても、あまりに廻り諄いやり方である。
――よし、ともかく当って砕けろだ。