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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

うぐいす

一

だが半次は足を緩めなかった。

――勘弁してくれ、ちい公。

心のなかでそう云った。

――どうしたっておめえを伴れてはいけねえんだ、済まねえが勘弁してくれ、おれだって辛いんだ、どうか勘弁して待っていてくれ。

うしろでおちづが悲鳴のように叫んだ。

「半ちゃん、あんた、――あたしを置いてゆくのね、あたしを、ああっ、――半ちゃん」

半次は歯をくいしばって、山内のほうへと道を曲った。けんめいに駆けてゆく彼の頬に、あとからあとから、涙がこぼれてきた。

うぐいす

一

暖たかい日であった。

谷を登るゆるい山道の、片側には雪が残っているが、片側はぬくぬくと日光を浴びて、枯草や土がつよく匂った。

「まるで春のようですね」

万三郎は暢びりと云った。

「これを登りつめると、一本杉という峠へ出るんですよ、そこだと筑波山がよく見えるんですが、――ああ、此処からも頂上がちょっと見えますね」

つなは黙って登り続けた。

「筑波山では大昔、かがいという習慣があったそうですね、御存じですか、かがい」

万三郎は独りで頷く、

「いやわかってます、お返辞はなさらなくとも結構です、貴女が御存じない筈はないですからね、それはもう云うまでもないでしょうが、ところが私はあまりよく知らないんですよ、謙遜じゃありません、私は学問――というか、文学というか、いったいに字をひねくる