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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
三
――いつもの岡さまではない、まったく違う人の顔であった。しかも、それはぞっと身の竦むほど、凄く、険しい顔であった。
「おかしな子ねえ」
松吉は苦笑した。
「いやなやつと良い人に会ったなんて、いったいそれはどういうことなの」
「それはあの、あの、――」
おちづは口ごもった。
「いやなやつっていうのは、いつか姐さんに話した、金杉のならず者で、相撲あがりの三島と屁十っていうやつなんです」
「ああ、半ちゃんが丸太で殴ったとかいうあれだね」
「ええそうです、三島っていうのは、まえにも丸太で殴られて眼が見えなくなったんですけど、こんどもまた見えなくなって、――こっくりさまのお灸へ五十日も通ったんですって、――でも、こんな話もうよしますわ」
「良い人というのはどうしたの、その人が助けてくれたんじゃないの」
「ええそうなんです」
「知らない人なのかえ」
「いいえ、ええ、――」
どうしてか、ふとおちづはあいまいに口を濁した。花田万三郎のことは云ってはいけない、という気持が起こったのである。
幸い舟は堀を曲り、ひらめ橋をくぐるので、話が途切れたまま、升屋の前へ着いた。
岡さまと松吉は奥の座敷へ去り、おちづは内所で夕食を馳走された。