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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
二
「――誰です、貴女は」
万三郎は坐り直した。
女は微笑しながら、髪の毛や胸のあたり、降りかかった雨のしぶきをゆっくりと拭いた。その微笑も嬌めかしく身ぶりもなまめいていた。なか高のうりざね顔で、眉と眼のあいだが広く、きめの密かな白い膚に、ふっくりとした唇が、なまなましいほど赤かった。
「花田の万三郎さまですわね」
と女は坐りながら云った。
「わたくし甲野のつなでございます」
万三郎はうっと云った。
二
万三郎はうっといって息をのんだ。
――甲野のつな。
すると五日まえに来たあのつなであろうか。
――いや違う、そうではない。
頭巾をかぶっていたから、仔細には見なかったが、あのときの顔や躯つきはまだ印象に残っていた。それは、いま眼の前にいる人とは明らかに違う、躯つきも眼鼻だちも、はるかに印象が違うのである。
「貴女が、つなさんですって」
「初めておめにかかります」
と女は手をついた。しんなりと手をついて、羞じらうように眼を伏せながら云った。
「お噂はいつも休之助にいさまから伺っておりました。お小さいとき、ずいぶん腕白でいらしって、たびたび右手の指にお灸をすえられたことや、柿の木へ柿をとりに登って、枝が折れて落ちて、足をお挫きなさいましたことなど、そのほかにもいろいろ伺っておりました」