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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
道ひらく
一
しかし彼女にはそれがいかにも貧弱で、薄く、みすぼらしいように思えた。
「あたし忘れないわ、決して」
とつなはうわ言のように呟いた。
「今日のことだけは、決して忘れないわ」
道ひらく
一
万三郎が和泉屋の寮へいったとき、つなはもう先に帰っていて、恐ろしいような眼で彼を睨んだ。
彼はつなが誤解していることを知り、その弁明がしたかったので、兄の部屋へゆくまえに、つなをつかまえて強引に庭はずれのほうへ伴れていった。
「たったひと言、――ひと言でいいんです」
つなは拒んだが、拒みとおしはしなかった。怒りと復讐の神(そんな神があるとすれば)のような顔つきで、黙って冷やかについて来た。
「お願いですから、どうか私の云うことをすなおに聞いて下さい」
「――さあどうぞ」
「貴女はつまり、なにか考え違いをなすっていらっしゃるようですが、実際のところあれはなんでもないんです、ほんとですよ、本当にただ膏薬の貼り替えをしていただけなんです」
「あの人には藤井という老女が付いている筈ですわね」
「ええ付いています」
「どうしてその老女がしないで万三郎さまがなさいますの」
つなは冷静な声で云った。