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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
四
めざす相手と会う符牒は「西の数寄屋」と云うのであった。
万三郎がそれを云うと、玄関へ出迎えた中年の、女中頭とみえる女が、ちょっと不審そうな眼で見あげた。
「私は代理なんだ」
気がついて万三郎が云った。
「それはどうも失礼致しました」
女はすぐに会釈をした。
「では御案内を致しますからどうぞこちらへ」
万三郎は女のあとからついていった。
広い廊下を二度曲ると、玄関の式台のような処がありそこから草履をはいて庭へおりた。
――これは壮大なもんだな。
万三郎は少なからず驚いた。
すばらしく天床が高い。太い柱も、厚いがっちりとした床板も、顔が写るほどよく拭きこんであり、障子や襖なども、重おもしくおちついて、ちょっと大名の御殿といった感じであった。
――ただ飲み食いをするだけなのに、こんな贅沢な家を建てるなんてばかなものだ。
彼はそう思った。
――こんな家で宴会なんぞやったら、さぞ高いものにつくことだろうが、――待てよ、もしかして勘定が足りなかったら困るぞ。
彼は兄から金一枚だけ貰って来た。当時、金一枚持っていれば、それで不足なときでも侍として恥ではなかった。しかし、その料亭の豪華な結構を見て、万三郎はにわかに不安になったのである。