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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

二

「私ひとりでまいりますか」

「いや私が御案内を致します」

井伊家から見舞いの品を贈る、というかたちで、松下内記が正使に立つ。徹之助はその供の中に入ってゆく、という手筈であった。

「では支度を致します」

時刻が迫っていたので、徹之助はすぐ支度をしに立った。

二

松平伊豆守の中屋敷は、上野の不忍池から北へ三丁ほどいった処にあった。

井伊家の使者に加わって、徹之助は定めの時刻にそこへゆき、邸内の数寄屋で信明に会った。信明は細おもての凛とした相貌で、躯つきも痩せてはいるが精悍な感じであった。折から金春某を相手に鼓を打っていたが、その音の烈しさは、いかにも彼の癇のつよい性格を表わしているように思えた。

二人だけになると、信明は大きな眼でぎろりと徹之助を見やりながら、

「調書の写しは見た」

と切口上で云った。

「あれが事実とすれば未曽有の大事だが、あまりに意想外で、とうてい真実とは思えない、なにかの間違いではないのか」

「間違いであれば仕合せですが、事実を証明するものが次つぎに出てまいるのです」

「あの調書のほかにか」

「写しを差上げましたあと、お浜屋敷へ海手からひそかに大量の荷を揚げ、それをさらに他の場所へ輸送するのを発見致しました」