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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
五
「石黒半兵衛じゃあないが、こういう扱いはちょっと戸惑いをするぜ」
「あんなひどいことをしたのに、あたしが怒らないからですか」
「尤も理由はわかっているがね」
「あらそうかしら」
女は斜交いにこっちを見あげた。いましがたの切迫した争いを忘れたかのように、その表情は明るく、むしろうきうきしているし、万三郎を見る眼には、まえよりもじかな、情熱と恣欲があふれていた。
「あなたがわかっていると仰しゃるのは、あたしが色仕掛けで、あなたから秘密を探りだそうとしている、っていうことでしょ」
「まさかそうじゃないとは云えないだろうな」
「それは云いませんわ」
女は酒を命じるために手を拍いた。
五
「それも嘘じゃあないけれど」
女中が酒を持って来て去ると、女はじっと万三郎を見つめながら云った。
「本当はそのほうがあたしの役目なんだけれど、もうひとつ底をあけると、あなたが欲しいんです」
「また同じせりふか」
「あなたが欲しいんです、死ぬほど」
「やれやれ」
「古い文句に、胸を割ってみせたいということがありますわね、あたしできるなら本当に割ってみせたい、この胸を割って、あたしの心の中をあなたに見せてあげたいと思いますわ」