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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

四

――だが邸内にはかよがいる。

それが大きな懸念であった。いつか江戸の芝で捉まって、「和幸」へ伴れてゆかれたときに、かよは艶然と笑いながら云った。

――女の眼はのがれられない、どんなに姿を変えても、自分の好きな人なら、女の眼は必ずみつけてみせる。

その言葉には実感があった。

ぜんぶの女性がそうでないにしても、かよにはそういう能力があるように思えた。「大めし」の前で先日ゆきあったとき、もしも虎造が彼女に呼びかけなかったとしたら、彼の正体は見あらわされたかもしれない。おそらく見あらわされたであろうと、万三郎には思われるのであった。

そのかよが邸内にいた。――そうして、彼はいまそこへゆく決心をしたのである。

――虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。

万三郎はそう肚をきめた。

四

虎造の住居はひどいものだった。

自分でも「馬小屋のような」と云ったことがあるが、それよりもっと狭く、古く、汚れていた。

暗くてよくわからないが、それは裏門を入ったすぐ右側にあった。

召使たちはもっと奥の長屋にいるそうである。そこは虎造ひとりに与えられているのだが、建物の半分は物置で、他の半分を板で仕切ったものであった。