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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

八

まったくだ、と云おうとして、万三郎は危うくがまんした。

八

「するとその女は、――」

と万三郎は訊いた。

「夜になってからも見に来るようなふうだったか」

「さあそこは、どんなものか」

伝次は首を捻った。

「おらも秀も横になってたし、わざと起きて見るのも怪しまれると思ったで、そのままじっとしてたですが、でもまあ安心してったらしいだで、そんなことはねえと思うですがねえ」

万三郎は少しばかり寒くなった。

――あの女には一種ふしぎな勘がある。

と休之助が云った。

そう云われたときも、じつのところ彼はぎょっとしたのである。彼女がいつも万三郎のいる処へ現われるのはお互いが同じ「朱雀調べ」の敵味方だからで、その点はごく当然なことであろう。つまり二人は一本の綱の両端を握っているようなものなのだ。万三郎が動けば、他の一端を握っているかよが引き寄せられる、といった関係に似ているのである。

それにも拘らず、そこには条件とはべつの、なにかしら「運命」のようなものが感じられた。

――彼女のふしぎな勘。

万三郎は一種の肌寒さを感じながら、しかもまたその自分の感情のなかに、少しも憎悪や嫌厭のないことを認めて、いまさら驚くのであった。