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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

六

休之助は呻きそうになった。

徹之助は松平伊豆守から聞いていたが、弟には話しそこなったので、休之助が紀州家と古木との関係を聞くのは、いまが初めてであった。

――古木甚兵衛、そいつだ。

江戸から送った荷駄は、古木家か、古木家に縁のある場所へ隠されたに違いない。先に来ている三人が、その事をつきとめているかどうかわからないけれども、偶然の機会でこれを知ることが出来たのは、幸運である。

――目標は古木の屋敷だ。

休之助がそう思ったとき、引戸をあけて孫娘のお梅が戻って来た。

「火はいいだよ、お祖父さん」

「そうか、寒かったろう」

「寒いことも寒いが、また山霊さんが哭いているだよ」

お梅はこう云って、聞いてみろというふうな身振りをした。老人は耳を澄まして、それから頷いた。

「うん、哭いてるだな、――」

休之助もつられて、じっと耳を傾けた。

炉で火のはぜる音のほか、夜半の山は死のような沈黙に包まれていた。なんの物音もせず、まして声などは聞えなかった。

「なにが哭いているのだ」

「山霊さまですよ」

老人が低い声で云った。

「――それ、よく聞いてごらんなせえ、あれがそうでさあ」