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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
十
そうでなくとも凄気のある相貌が、いまはまるで幽鬼のように見え、万三郎はぞっと背中から寒くなった。
「みごとだ、よくやった、褒めてやるぞ」
半兵衛は唇を片方へ曲げた。
「だが、こんどはこっちの番だ」
十
こっちの番だと云いながら、半兵衛は右手に持った寸延びの刀を、ゆらりと振った。
それは例の無反の刀であった。
「まあ待って下さい」
万三郎は片手をあげた。
「それはもう無意味ですよ、もうそんなことをする必要はないじゃありませんか」
「なにが無意味だ」
「ごらんのとおりこの貯蔵所は全滅したし、それに、そうです、渡辺蔵人という人間も私たちの手に」
「やかましい」
半兵衛は絶叫した。
「そっちに意味がなくともこっちにはあるんだ、此処が全滅したことは、このおれ自身が破滅したことだ、おれはもう生きている要はない、この貯蔵所といっしょに亡びるつもりだ、が、――きさまを生かしたままでは死なんぞ」
「ちょっと云わせて下さい石黒先生、まあひと言だけ聞いて下さい」
「よせ、おれは石黒半兵衛ではない、その名を口にするな」
「悪ければ云いません、しかし」
と万三郎は少しずつ脇のほうへ身を除けながら、熱心な口ぶりでなだめにかかった。