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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
六
「――お盃だって、またか」
「ええ、お寝間でよ、それが本当のかための盃っていうんですわ」
そう云って襖をあけた。
六曲の屏風をまわした中に、夜具がのべてあり、祝いの膳が置いてあった。それらのものを、絹行燈のやわらかい光りが、嬌めかしく照らしだしていた。
六
二人だけで、――かよのいうかための、――盃を済ませた。
それまで浮き浮きとはしゃいでいたかよは、盃が終ったとたん、静かにうなだれて、しんと沈黙した。
白羽二重の寝衣に鴇色のしごきを緊め、髪毛は解いて背に垂れている。豊かにくびれた腰の線や、重たげに張りきった胸のふくらみが白一色に消されて、いつもの陽気で嬌羞にあふれているかよとはまったくべつな、初い初いしく、殆んど清浄な印象を与えるのであった。
「なにを悄気ているんだ」
万三郎が手を伸ばしながら云った。
「――心ぼそくなったのか」
かよはそっと頭を振った。さし伸ばされた万三郎の手には気がつかないらしい、――見ると膝の上へぽとぽと涙がこぼれ落ちた。
万三郎は狼狽し、どうしていいかわからなくなった。むやみにかよがいじらしく、哀れなように思われ、劬り保護してやりたいという、激しい衝動に駆られた。