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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

烈火の剣

一

男はふくべの栓を抜き、袂から盃を二つ出して、一つをかよに持たせた。

「わたくしもう頂けませんわ」

「まあ一つ、――少し酔わないと、聞いて胆を消すかもしれないぞ」

男はかよに酌をし、自分も手酌で三杯ばかり、続けさまに呷った。ふくべの口でとくとくと酒の鳴るのが、万三郎の耳にはっきりと聞えた。

「憎いのは花田徹之助だ」

と蔵人が云った。

烈火の剣

一

万三郎は殆んど叫びかけた。

渡辺蔵人の言葉が、あまりに思いがけなかったからである。彼はさも憎にくしげにこう続けた。

「みんなあの男のためだ、花田徹之助というあの男め、――もう手も足も出まいと思っていたのに、くそっ」

そしてぺっと唾を吐いた。

全身が耳になったような、神経の激しい緊張を感じながら、万三郎はじっと次の言葉を待った。

蔵人はなおかよに酒を強い、自分でもぐいぐいと呷りながら云った。

「深川にある井伊家の下屋敷がかれらの本拠だとわかったから、逐い出しをかけたうえ一網打尽の策をとった、ところがほんの一歩の差でかれらを取り逃がした」

「なぜ踏込まなかったんです」

「井伊家で逃がすとは思わなかった、白川侯の睨みが利いている、田沼との関係で逼塞している状態だから、よもやそんな勇気はないだろうと思ったのだ」