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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
四
つなはその顔を冷やかに、黙ったまま見返した。
四
つなは黙っていた。
かよがなぜ此処へ現われたか、彼女にはもちろんわからない。かよは約ひと月まえに甲野の家を出た。それからどこへいったか、今なにをしているか、まるで知らなかった。
けれども、本能的に、かよが自分の味方でないということは直感できた。
「あら、せっかくあたしが来てあげたのに、あなたは少しも嬉しそうにして下さらないのね」
かよは手燭を下に置き、そこへ跼んで、わざと甘えたつくり声で云った。彼女が跼むと、嬌めかしい香料の匂いが強くした。
「なんのためにいらしったの」
つなが冷やかに訊いた。
「なんのためでしょう、おわかりにならないかしら」
「わからないわ、もちろん知りたくもないけれど」
「あらそうかしら、――」
かよは喉で笑った。つなはその笑いが大嫌いであった。長いことかよといっしょに生活してきたけれど、かよの色っぽい身ごなしや、舌ったるい言葉つきや、鳩のような喉声の笑い方を聞くと、いつもぞっとするほどいやらしかった。
「そんなことはない筈よ」
かよは悠くりと云った。
「十三の年からごいっしょに暮した、かよが来たんですもの、あなたは嬉しさに躍りあがる筈だし、もっと歓迎なさらなくちゃならない筈だわ、そうして、どうか助けて呉れと仰しゃる筈じゃないの」