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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

三

万三郎は閉口した。

「なんだかわけのわからないことばかりだが、そのお嬢さんというのはなんだい」

「おれだって知らねえさ」

少年はどなり返した。

「どこの人だか知らねえけど、きれいなお嬢さんがおれにそう頼んだんだ、それでおいら小父さんの来るのを見張ってたんだ」

「その人は私の名を知ってるのか」

「ちぇっ、あたりきじゃねえか」

少年は舌打ちをして云った。

「おいらはこっちへゆくぜ、小父さんは門前町の横丁へ入って、あいつらをまいていかなくっちゃだめだよ、わかったかい」

三

紀州家の二人をまくために、芝の山内のほうまで遠まわりをした。

それから築地へ向ったので、増六へゆき着いたのはもう黄昏であった。増六は海に面した角地にあり、家は古いけれども、構えは大きかった。表側は二階造りで、裏には五つばかり座敷のある平屋が付いていた。もとは料理茶屋でもしていたのだろう、中庭もかなり広く、洒落れた配置の樹石のあいだに腰掛なども見えた。

万三郎は二階の部屋にとおされた。まえにそう知らせてあったらしく、中年増のはきはきした女房が出て、自分でその部屋へ案内をし、着換えも手伝ってくれた。

「こんなに汗になっていらっしゃる、ちょうどお風呂が沸いたところですから、すぐおはいりなさいましな」