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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
鼠
一
――あたしおかめなのよ。
と云うのが口癖である。
――あたしおかめなんですってよ。
と自慢そうに云う。まるで褒められたような口ぶりである。
おかめには限らない。なんでも自分のことを云われると嬉しいらしい、母親に、なんてまあ縹緻の悪い子かしら、などと云われても、
――それたあちゃんのこと、あらそう。
などとにこにこするのであった。
松吉姐さんのお出先の一軒で、おちづは使いに来るたびに仲良くなり、暇なときはよく二人で遊ぶようになった。
姐さんの旦那は、いつも初めに此処へ来る。それから洲崎の「升屋」へゆくこともあるが、此処だけで帰ることのほうが多い。「升屋」へゆくときには、姐さんの着替えを手伝うので、今日も旦那の「岡さま」が来ているため、おちづはそこで待っているのであった。
おちづはその料亭がどこよりも好きだった。
「ちづか」というのが自分の名と似ているのがいいし、おかみさんも親切、お民も妹のように可愛かった。
「ちづか」はあまり大きい店ではない、昔は船宿で、岡さまはその当時から贔負にしていたが、主人の仲造が死んだあと、料理茶屋のほうが女手ではやりいいだろうと云って、金を出して呉れたのだそうである。