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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

四

うしろ手に縛りあげ、猿轡を噛ませた渡辺蔵人を伴れ、万三郎はかよを抱いていた。伝次や秀と交代しながら、ずっとそうして抱いて来たのであった。

「どうしたんだ三郎」

休之助がまた云った。

「それはどうしたことだ」

「話はあとでします」

万三郎は答えた。

「つなさん、寝る支度をして下さい、この人は怪我をしているんです」

「あたし大丈夫です」

かよが身をもがいた。

「どうかおろして下さい、自分で歩けますから」

「黙んなさい」

万三郎は怒った声で云った。

「洒落や道楽でやってるんじゃない、これ以上せわをやかせると承知しないぞ」

かよは黙って眼をつむった。立って奥へゆくつなを見ながら、万三郎は(かよを抱いたままで)上り框に腰をおろした。

「伝次、おれの草鞋をぬがしてくれ」

伝次は云われるようにした。

休之助は炉端に坐って、まるで噛みつきそうな眼で弟を睨んでいた。万三郎は平然として、土間にいる蔵人を顎でしゃくった。

「休さん、その男を知っていませんか」

休之助がそっちを見た。蔵人は猿轡を噛まされたうえ低く頭を垂れているので、休之助には顔がよくわからなかった。

「なに者だ、――」

「わからないが相当なやつらしいんです、名は渡辺蔵人とかいってましたがね」