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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

五

「そういうものでしょうな」

相手は尤もらしく頷いて、

「酒井さまはいま御詰衆でしたかな、御詰並でしたかな」

と軽く訊いた。万三郎は思わずうっといった。駿河守が数年まえまで御詰並にいたことは知っているが、それからどんな役になったかは知らないのである。うっかりすると尻尾を捉まれるぞと思ったが、さりげなく笠の紐など直しながら、おちついて答えた。

「いまは溜間詰の上席です」

「ほう御詰衆ですか、それは違やあしませんか」

相手は眼をぎょろつかせた。

「酒井駿河守さまは菊の間で御詰並だと聞いていますがね」

「ばかなことを、――」

万三郎は笑った。

「自分の仕える主人の役名を知らないで、侍が勤まると思いますか、つい先月お役替えになったんですよ」

相手は鼻を鳴らした。それから陳述に嘘がないかどうか念を押したうえ、いってもよろしいと会釈をし、茶店の中へ戻っていった。

――これはいそぐ必要がある。

万三郎は歩きだしながらそう思った。こんなに丹念に調べるようでは、慥かに敵の手がまわったにちがいない。

――午飯はぬきだ。

彼は空腹のまま歩き続けた。

五

そのあたりは関東平野の北端に近く、正面に日光連山が迫っているし、右に筑波の山がそばだってみえるが、そのほかは一望の平野で、なだらかな丘の起伏や、草原や耕地のあいだに、防風林に囲まれた農家の集落