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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

五

「あらまだだめよ」

着替えをして、寝間へ入ろうとすると、かよが手をひろげて止めた。

「いまちょっとお化粧を直すんだから待っていらっしゃい、ほんのちょっとだから」

「どうして待つんだ」

「そんなことお訊きになるものじゃないわ、そこに坐っていらっしゃい」

こんなふうに字に書くと乱暴にみえるが、かよの口から聞くと、子供っぽくて、あまくしっとりとして、微笑ましいくらいである。

「つなさんになんて仰しゃって」

水白粉を手につけながら、かよは横目で万三郎を見た。万三郎は手を振った。

「かくべつなことは云やあしない、ごくあたりまえな挨拶さ」

「だからなんて仰しゃったの」

「うう、その、……ながいこといろいろと御面倒をかけましたってさ」

「あの方はなんて、――」

「いいえわたくしこそ」

「それから、――」

「たいへん不躾なことばかり申上げました、どうぞお忘れ下さい、――おい冗談じゃない、つまらないことを云わせないでくれ」万三郎は口を尖らせた。

かよはいたずらっぽく笑って、

「あなたどんなお気持だった。正直に仰しゃってよ、いざとなると別れるのが辛かったんじゃなくって」

「正直にいえばほっとしたさ」