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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
二
二
躯を拭き、着物を着ると、万三郎は木戸をぬけて中庭へ入っていった。
かよの住居はかなり大きい。大膳亮が来るようなときは、おそらく老臣の宿舎にでも使うのであろう。十帖に八帖二た間と、小部屋が四つばかりあり、かよのほかに青山家の老女と、二人の下婢がいた。
老女は藤井という名で、もう五十六七になり、かよの監視役であるが、五六日もするとすっかりかよが好きになって(つまりまるめられて)しまい、いまではあまやかして育てた娘のように大事にしていた。
万三郎の住居はべつであった。
それは中庭の南がわにある侍長屋の一棟で、隣りには和田東麿という、勝手係りの侍とその老妻が住んでいた。東麿などと、名前だけは公卿のようにみやびやかであるが、当人は年も六十三になり、白髪頭で腰が曲りかけている。自分でもその名に気がさすらしく、
――どうもこの名前には困ります、昔からずいぶん恥ずかしいおもいをして来ました。
と万三郎にも云った。おそらく初対面の人には誰にでも云うことらしい。
――父が国学に凝って、こんな名を付けたのだそうです、はるまろと読んでくれる人はごく稀で、たいていはあずままろ、なかにはとうまるなどといやがらせのように読む者もありました。