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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
五
「仰しゃらないで」
と駕籠の中からかよが遮った。
「わたくしも貴方と同じですわ、かよもやっぱり、あの方に負けましたのよ、あの方を手玉にとる気で、すっかり手玉にとられたかたちよ、――さあまいりましょう」
駕籠があがった。
五
炎々たる焔が、夜の空を焦がしていた。
小さな爆発が起こるたびに、その赤い焔を稲妻のような閃光が貫き、眩しいほどきらきら光る火の粉が、渦を巻いて噴きあがった。
万三郎は空壕の中にいた。
深さ五尺ばかりの空壕で、爆発が起こるとばらばら土が崩れた。
その壕を伝ってゆくと、山腹をまっすぐに下る竪壕がある。どういう戦法に使われたものかわからないが、それは幅が約六尺、深さ五尺ばかりのもので、山の上から麓ちかくまで殆んどまっすぐに掘られていた。
空壕の外では激しい斬合いが始まっていた。
彼はその竪壕から脱出する敵に備えているのだが、まだそこへ現われる者は一人もなかった。
襲撃は半刻まえに始まった。
その山は「要害山」といって、甲府城下から、北へ一里二十町ばかりのところにある。武田氏が甲斐のくにに勢力を張っていたころ、古府本城の出丸でもあったらしく石塁や空壕や石垣などの跡が残っていた。