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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
四
「そのときは怒ったわよ、そして、このお乳のところを拳骨で突かれて気を失っちゃったわ」
おちづは押えている左の乳房の脇を、伸びあがって鏡に写してみた。
「ほら姐さん、そのときの痕がまだここに痣になって残っててよ」
四
女衒の手から手へ渡って、正月下旬に、江戸へ来た。
藤沢の木賃宿を出て以来、どの町をどう移されたのかわからなかった。
いつも家の中に檻禁されたままだし、売られてゆくときには、身動きのできないように縛られ、猿轡を噛まされた。
そうして五人めに、鬼の六兵衛と異名のある男の手に渡り、そこで松吉に救われたのであった。
松吉の旦那という人は侍で、本名はわからないが「岡さま」と呼ばれ、五十四五になる温厚な人物だった。去年の十月、松吉に家を持たせて呉れ、十日に一度ぐらいずつ逢いにくるが、もちろん料理茶屋へ呼ぶだけで、家のほうへ来たり、泊ったりするようなことはなかった。
――抱えでも置いたらどうだ。
たびたびそう云われ、松吉もその気になったとき、おちづの話を聞いた。
――鬼六の処でまた娘の泣き声がする、例によってあこぎなまねをしているんだろう。
そんな噂であった。