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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「誰か伴れがあるのか」
「いいえお一人でございます」
万三郎は頷いた。
「お食事はどう致しましょうか」
女中は去ろうとして訊いた。万三郎はあとで知らせると答え、立っていって、廊下からそっと店の表を見おろした。誰か外で待っている者がいはしないかと思ったのである。しかし店の外にはそれらしい者の姿は見えなかった。
まもなく客が入って来た。
じみな色の縞の着物で、胸だかに帯をしめ、褄を取っていた。紫色の縮緬の頭巾をかぶっているので、顔かたちはよくわからないが、高い鼻と、きれいに澄んだ賢そうな眼が、万三郎の注意をひいた。彼女は風呂敷包を持っていた。
「失礼ですが事情がありますのとすぐにおいとましなければなりませんので、頭巾のままお許しを願います」
娘はこう云って坐った。
「吉岡万三郎さまでいらっしゃいますね」
養家の姓を呼ばれて、彼はちょっとまごついた。
「ええそうです、万三郎です」
「わたくし甲野のつなでございます」
「つなさん、――貴女が」
万三郎はわれ知らず高い声をあげた。長崎ではるかにあこがれていた人である。会うのはいま初めてであるが頭のなかではいつもその姿を想い描いていた。