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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

こそこそ裏から出てゆくのが見えたんです」

「そいつはいかん、そいつは」

万三郎は舌打ちをした。

「私もなにかあったと思ったものですから、では待たせてある伴れを呼んで来るからと、笠だけ店先へ置いて、ちょうど日が昏れているのを幸い、外へ出るなり裏町の暗がりへとびこんで逃げたのです」

むろんそのまま逃げるわけにはいかなかった。つなのことはともかく、あとからすぐ万三郎が来る筈である。まるで張ってある罠のまん中へ踏み込むようなものだ。

――どうしても知らせなければならぬ。

斧田は夜の更けるのを待って、道を引返した。彼の逃げたことはすぐ知らされたらしく、街道の要所には警戒の人数が出ていたので、ひどく廻り道をしなければならなかった。

「江川という宿で夜が明けたのですが、そこには変ったようすはない、役人らしい人間もみえないものですから宿外れの茶店に寄って、馬子たちといっしょに食事をしたんです」

そこからひと跨ぎ東によって、袋井という娼家のある場所がある。馬子たちの多くは、そこへ夜遊びにゆく客を送った帰りで、酒を飲みながらばか話をしていた。

「なにか噂が聞けるかとも思ったんですが、食事の途中で役人に踏みこまれ、混雑していたためにどうすることもできないし、馬子たちも敵に加勢したもんですから――」