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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

四

――此処へまで手が廻ったのか。

容赦なくびしびしと打ってくる敵の、積極的で強烈な手が、殆んど眼に見えるようであった。

「しかし邸内捜索などということができるでしょうか」

「御承知のとおり井伊家の立場が立場なものですから」

徹之助は頷いた。

まえに記したとおり、前藩主の掃部頭直幸が大老を免ぜられたのは、失脚した田沼家との関係によるもので、そのため当主の直明にはまだ役が付いていない。つまり政治的にはいま弱い立場にあるので、こんな事が表沙汰になるのは、井伊家にとって極めて好ましくないことであった。

「では早速、なんとか方法を講ずることに致しましょう」

「あとで御相談にあがります」

小出に別れて住居へゆくと、そこには休之助が苛々しながら待っていた。

「お倉へ火がつきましたよ」

兄の坐るのを待ちきれないように、眼を怒らせて彼は云った。

「大久保家にいられなくなりました」

四

「なんだって、――」

徹之助はあっという顔をした。

「では加賀邸へも小普請奉行から使いがいったのか」

「此処へもですか」

「いま小出から聞いたばかりだ」

休之助は口をへの字なりにし、腕組みをしたかと思うとすぐに解いて、前へ乗り出しながら、呻くように云った。