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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

二

休之助は手綱をゆるめ、両膝を緊めて、腰を浮かしながら馬をあおった。

馬は危うく立ち直った。

しかし坂が左に曲ると、傾斜が急になり、同時に道は岩がなくなって、霜溶けのぬかるみになった。

――此処を乗りきれば。

休之助は膝と手綱とで、けんめいに馬をあおった。だが馬はともすると肢を滑らせた、駆けて登るには無理な傾斜である。

突然、馬は前肢を折った。

「しまった、――」

叫びながら、馬の首を越えて、休之助は転げ落ちた。

二

落馬したが幸いどこも痛めなかった。ただ、ぬかるみで泥まみれになり、はね起きようとして三度ばかり滑った。

「落ちたぞ、――」

下のほうで喚くのが聞えた。

「あそこだ、そっちから廻れ」

声は近かった。

「馬はだめだ、みんなおりろ」

休之助はもう走せ登っていた。

その坂は急勾配に右へ曲るが、そこからまっすぐに下る道もある。彼は右へ曲った。

うしろで馬の嘶く声がした。休之助の乗って来た問屋の馬で、彼のあとを追って来るらしい。滑っては立ち、悲しげに嘶く声が、手に取るように聞えた。

――飼い主でもないのに。

彼はちょっと心をうたれた。

しかし跟いて来られては困る。