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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――斧田と二人だな。

そう思うと闘志が火のように燃えあがった。彼はつなの側へとび寄りながら、

「甲野の兄さん」

と声いっぱいに叫び返した。

「気をつけて下さい、その中に石黒半兵衛がいます、飛魚という突の名手です」

「こっちに構うな」

と休之助が叫んだ。

「つなを伴れて逃げろ」

万三郎は躰をひらきながら大きく刀を振った。一人の男が斬り込んだのであるが、同時にもう一人が猛然と突を入れて来た。

万三郎は右と左にその二人を斬った。先の男は太腿、次の男は二の腕である。手応えは慥かだったし、かれらの悲鳴と、転倒した一人の姿を見て、万三郎は自分の腕の慥かさをはっきり自覚した。

――これならやれるぞ。

そう思った。小野派と念流の免許を取っているが、真剣の立合いは初めてだし、人を斬るなどということは想像したこともなかった。だがいま彼はやった。それも馴れない他人の刀で、みごとに二人斬ったのである。

――石黒ともやれるぞ。

そういう勇気が実感として身内にわきあがった。

以上はごく短い時間のできごとであった。並の呼吸にして三十か五十くらいの間だろう、気がつくと、休之助たちのほうが急に静かになり、なにか云っている女の声が聞えた。