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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「いいから逃がしておやりなさい、日本じゅうが網の中のようなもんじゃないの、どこに隠れ場所もありはしないし、捉まえようと思えばいつだって捉まえられるわ」
彼女がこう云っているあいだに、万三郎はつなを背負おうとした。だがつなは拒んだ。片手で休之助の腕に縋りながら、
「わたくし歩けます」
とそっけなく云って、そのまま、右足を少し曳きながら、そろそろと歩きだした。それを見て、斧田がすぐに片方へ寄り、つなの左の腕を支えた。
かよはからからと笑った。
「どうぞ御無事にね、万三郎さま、今夜お逃がしするのはまた逢うためだということをお忘れにならないで」
万三郎は歩きだした。
「あなたのいらっしゃる処には、きっとかよがいるものと思っていて下さいまし、たとえ蝦夷ヶ島、筑紫のはてにでも、かよは決して万三郎さまから離れは致しませんから、ようございますわね、――きっとでございますよ」
歩くにしたがってかよの声は遠くなり、やがて吹雪にかき消されていった。だが、万三郎の耳には、いつまでも彼女の声が残った。
――きっとでございますよ。
芽ぐむ胸
一
夜の九時ごろであった。
おちづは金杉橋の袂に立って、半次の帰るのを待っていた。