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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「あたしおよそ知ってます」
おちづは強く頷いた。
「あたしは街で育ったようなものだし、ごろつきやならず者たちの、云うことすることを聞いたり見たりしてきたんですもの、どんな事があったって驚きゃしませんわ」
「ああ、――あんたってひとは」
松吉は膝へばたりと手を落した。
――見たり聞いたりしたことがなんになるものか、いざ自分のこととなってみると、そんなものは少しも役に立ちはしない、人間はみんな、自分で火傷をしてみてから、初めて火の熱いことを知るものなんだよ。
こう云いたかったが、云ってもむだだということがわかっていた。松吉は溜息をつきながら立ちあがった。
「さあ手伝ってあげよう、着替えをしてお稽古にいっておいで」
春昼
一
万三郎は井戸端で汗をながしていた。
下帯だけの素裸になり、釣瓶で水を汲みあげては、肩からざあざあ浴びるのである。
※(歌記号、1-3-28)――嵯峨にては、ただ、片折戸したる所とこそ、きこし召し候え、さようの賤が屋には、片折戸と申すものの候――。
植込の向うから、女の謡う声が、いかにものどかに聞えて来た。
万三郎はなお水をかぶる。
筋肉のよく発達し、艶つやと緊張した膚を、水は白玉を飛ばして洗い流すが、膏にはじかれて水滴も残らない。