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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
春昼
一
春とは云ってもまだ二月中旬で、朝の空気はかなり冷たかったが、まる一時間も刀を振った(彼の日課であった)あとでもあるし、若い血の充満している躯は、水で打たれるとますます緊張し、みごとに赤くなっていった。
※(歌記号、1-3-28)――やがて出ずるや秋の夜の、やがて出ずるや秋の夜の――
謡の声はまだ続いていた。
「はてな、――」
万三郎は首を傾げ、手拭できゅっきゅっと躯を拭きながら、眼を向うへあげた。
此処は向島須田村で、青山大膳亮の下屋敷である。結城から帰って来てすぐ、かれらはいちど橋場の和泉屋の寮に入ったが、あまり人数が多いと、敵に嗅ぎつけられる危険があるし、また近いうちに、紀伊家の小田原河岸の邸から、花田徹之助の妻子を奪回して来る計画もあるので、かよに万三郎を付けて、向島へと移らせたのであった。
青山(大膳亮)幸直は若年寄で、井伊直明とも親しかったし、松平伊豆守とはさらに深い交友があった。それでその下屋敷を借りたのであるが、此処は前に綾瀬川の流れがあり、向うは畑や田や、雑木林などの、うちわたして見える田園で、晴れている日には、筑波山が美しく眺められた。