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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
とかよはくすっと笑った。
「本当は三郎さまは思い違いをしていらっしゃるのよ、御存じないでしょ」
「なにが思い違いですか」
「あなたはね、――云ってもいいかしら」
かよは媚のある眼で、じっと万三郎をみつめながら云った。
「あなたが本当にお好きなのはね、つなさんじゃないっていうこと、つなさんを好きだと思っているのは、御自分の思い違いだっていうことよ」
「ほほう、――」
万三郎はにやっとした。
「それが思い違いだとすると、私が本当に好きな人はほかにいるというわけですね」
「もちろんですわ」
「教えてもらいましょう、誰です」
「わ、た、く、し、――」
一字ずつ句切って、あまえたような、舌ったるい調子で、しかしはっきりと云った。
万三郎は毒気をぬかれた。
「貴女ですって、私が貴女を」
「お好きなんですの」
かよは躯ごと向うを向いた。そうして恥ずかしさを隠すためだろうか、こちらへ背中を向けたまま、羽折の下でしきりになにかしながら云った。
「あなたは長崎にいらっしゃるうちに、つなさんのことをお聞きになって、あの方をお嫁にもらうおつもりになったでしょ、そのことがあなたのお頭に残っていて、まだ約束もなにもなさらないのに、まるで許婚かなんかのような気持でいらっしゃるんですわ」