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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「やっぱり升屋へいらっしゃるんですって、あんたもいっしょに伴れてってやれって仰しゃってよ」

「あら、あたしも」

おちづは眼をまるくした。

「いま云ってたとこなのよ」

とおかみさんが云った。

「あたしもいちどおめにかかりたいって、願がかなったわけだね、ちいちゃん」

「どうしておめにかかりたいの」

松吉は着替えをするために、帯を解きながら訊いた。おちづは風呂敷包をひろげながら、ちょっと羞んで首を振った。

「どうしてでもないけど、だって姐さんの旦那だし、あたしも御恩になってるんですもの、お顔も知らないっていうほうがへんだと思うわ」

「それもそうね」

松吉はくるっと肌襦袢だけになった。

「でも気をつけておくれよ、舟の中は狭いから、失礼のないようにね」

「ええ知ってますわ」

「あんたは男の子みたいに乱暴なことをするんだから」

「大丈夫よ姐さん」

おちづは自信ありげに大きく頷いた。

支度ができると、かれらは舟で洲崎へ向った。

岡さまは五十四五になる。中肉中背で、おっとりとした、動作も言葉つきもごく静かな、武家というよりもどこかの大店の主人といった感じの人であった。

おちづは隅のほうに小さくなって、ときどきそっと岡さまをぬすみ見た。