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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

おちづは松吉姐さんにも油断しなかった。升屋へゆく舟の中で、旦那の岡さまの凄く変った表情を見てから、岡さまが急に底の知れない人のように思えてきたし、それにつながる松吉にも、しぜん用心する気持になったのであった。

「そうすると、この手紙を真崎稲荷の近くの、この寮へ届けてくれ、と書いてあるって云われたものですから」

「持っているのね、その手紙」

「ええ持ってます、これですわ」

おちづの取出した結び文を、つなは奪い取るようにして、披いて見た。

万三郎の筆蹟であった。

煤を濡らして棒の先ででも書いたのだろう、ひどくかすれた大きな文字であった。

「有難うよおちづさん」

つなはおちづの手を掴んだ。

「この手紙を書いたのは、わたくしたちにとって大事な人なの、十日ばかりまえから行方がわからないので、みんなでどうしようかと心配していたのよ」

「もしかして、それは」

とおちづは口ごもりながら、

「あの、花田万三郎さまじゃないんですか」

「あなた知っておいでなの」

「ええ、十日ばかりまえだとすると、あたし花田さまに道でお会いしたんです」

おちづははっきり思いだした。

永代寺門前町の裏河岸で、屁十と三島に捉まったときのことである。