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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

六

六

二挺をかけた舟が、洲崎弁天社の海際に着けてあった。

待っていた梶原大九郎と村野伊平の二人が、四人を迎えてすぐに舟へ乗った。舟の中にはもう一人、おちづがいて、

「まあよかった、御無事でしたのね」

と万三郎を見て云った。

暗いのですぐにはわからなかったが、おのおの座を取って舟が出ると、万三郎はようやく気がついて「ああ」と声をあげた。

「――おまえだったのか」

「ええあたしでしたの」

「そうか、うん、そうだったか」

万三郎は二度も三度も頷いた。彼の眼には涙が滲んだ。

――土台石の隙間から聞えたのはこの娘の声だったのだ。

増上寺山内の「和幸」のときも助けられ、こんどもまたこの少女のために助けられた。彼はいつか兄たちのすることを、ひそかに怒ったことがあった。

――半次やこんな少女に、危険を冒させるなんてひどい。

しかし、そう思った彼自身が、二度まで危ないところを救われたのである。

「三郎、あの覆面の剣士は誰だ」

舟が大川ぐちに向って進みだすと、休之助が弟のほうへ振返って訊いた。

「誰でしょう、私も知りません」

「太田は知っているか」

「い、いや、――」

太田嘉助は少し吃る癖がある。